犬の顔が語る:人間の介入がもたらす影響
2025年10月5日の日経新聞の朝刊サイエンス面に、興味深い記事が掲載されていましたので紹介します。
この記事では、犬の品種改良がもたらした予期しない影響について、科学的な視点から検討されています。特に、犬の顔の形が変化したことが呼吸器系の問題や感情表現の障害を引き起こしていることを指摘し、これが犬の健康や社会性に及ぼす影響を考察しています。
犬は、約1万5000年から3万年前に人間とともに暮らし始め、狩猟や番犬として重要な役割を果たしてきました。そのため、犬の品種改良は主に人間の好みに基づいて行われてきました。例えば、愛らしい見た目を持つ犬種が選ばれる傾向にあり、特に目が大きく、鼻が小さく、丸い頭を持つ犬が好まれたといいます。しかし、こうした見た目を追求する品種改良が、犬の健康に深刻な影響を与えているのです。
研究によると、例えばフレンチブルドッグなどの平たい顔を持つ犬種は、鼻腔が狭く、気道が短いため、呼吸がしづらくなりやすいとされています。このため、これらの犬は呼吸困難に陥ったり、疲れやすくなることが多いと報告されています。フレンチブルドッグのような犬種の平均寿命は、一般的な犬種よりも約1割短いとされています。これらの結果は、犬の顔の形と寿命との関係を調べた英国の研究に基づいています。
さらに、顔の形が変わった犬は感情を表現する能力にも影響を受けているといいます。ダラム大学の研究によると、パグやフレンチブルドッグなどの犬種は、オオカミに近い犬種に比べて感情を表す表情が乏しく、感情を理解しづらいことが示唆されています。特に、犬同士のコミュニケーションや人間とのやり取りにおいて、顔の動きが重要な役割を果たしていることがわかります。しかし、品種改良によって犬が表情を作る能力が低下した結果、感情の伝達が難しくなり、社会的な交流にも支障をきたしているというわけです。
犬に対する品種改良の影響は、ただ健康面にとどまりません。この記事では、動物の品種改良に関する倫理的な問題にも触れています。京都産業大学の野村哲郎教授は、「人間の好みだけで動物を作り替えるのは健全ではない」と警鐘を鳴らし、過剰な品種改良が犬の体に負担をかけ、健康を損なう可能性があることを指摘しています。また、特定の犬種に人気が集中することによって、遺伝的多様性が低下し、将来的には遺伝病に対する抵抗力が弱まる危険性もあるという点は見過ごせません。
これらの問題は、愛玩動物としての犬に限らず、家畜や野生動物にも共通する課題です。たとえば、家畜の品種改良においても、肉質の向上や乳量の増加といった目的で行われる改良が、動物の健康に悪影響を与える場合があります。野生動物の保護活動においても、人工的に改良された個体の遺伝的多様性を保つことが重要視されています。
今後、犬と人間が共生していくためには、単に「かわいらしさ」や「外見」による品種選択を超えて、動物の健康や福祉を考慮した品種改良が求められるでしょう。動物愛護団体や科学者たちは、遺伝的多様性を守りながら、動物の体に負担をかけない改良を進める必要があるとしています。そのためには、国際的なガイドラインの策定や、科学的根拠に基づいた品種改良の指針が必要だという意見も多く、今後の議論に注目が集まっています。
人間と動物が真に共生できる社会を目指すためには、愛玩動物としての犬、さらには家畜や野生動物に至るまで、私たちの手が加えるべき範囲とその限界について再考することが重要ではないでしょうか?
2025年10月5日 日経新聞 朝刊サイエンス面 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91740320U5A001C2TYC000/?fbclid=IwY2xjawNP7z5leHRuA2FlbQIxMQBicmlkETFFSm1hUjF4TXcyWXBCSmhwAR4rG8-D1Dy7m-CYPtRuteo8E9I-lLJt3snV_R4ZnJi3p4JbydWBUXRYvKVTgg_aem_4PNe5byJ_G6UTjJ-bRtLrg
Facebookにも投稿しています。