デニソワ人—東アジアに広がる足跡
2025年11月23日の日経新聞の朝刊サイエンス面に興味深い記事が掲載されていましたので、紹介いたします。内容は「デニソワ人」という謎の古代人類に関する新たな研究成果で、特に東アジアにおけるその広がりについての発見が注目されています。
「デニソワ人」とは、シベリア西部のデニソワ洞窟で初めて発見された人類の一種で、2010年にそのゲノム解析を通じてその存在が確認されました。これまでの研究では、デニソワ人はネアンデルタール人と並ぶ重要な旧人類として知られており、現代の人類、特に東アジアやオセアニアの一部の集団に遺伝的影響を与えていることがわかっています。本記事では、デニソワ人が東アジアにどのように広がったのか、またその未解明の部分がどのように解明されつつあるのかを追います。
注目すべきは、東アジアで発見された新たな化石がデニソワ人の存在を強く示唆している点です。今年9月に発表された論文では、中国湖北省で発見された約100万年前の頭骨化石がデニソワ人に属する可能性が高いとされました。この発見は、デニソワ人が東アジア全域に広がっていた証拠を提供しており、特にその発展の過程に関する理解を深めるものです。
これまで、デニソワ人の起源はシベリア西部に限られていると考えられていましたが、最近の発見により、その範囲は予想以上に広いことが明らかになりつつあります。さらに、今年6月には中国東北部のハルビンで発見された約14万6000年前の頭骨化石がデニソワ人であることがゲノム解析によって確認されました。この発見は、東アジアにおけるデニソワ人の広がりを裏付ける重要な証拠となっています。
また、台湾西部の海底で発見された下顎の骨もデニソワ人のものとされ、この地域におけるデニソワ人の存在がさらに明確になりました。これらの発見により、従来「ホモ・エレクトス」などの系統に分類されていた古代人類の化石が、実はデニソワ人に関連している可能性が浮上してきたのです。
このような新しい証拠が積み重なる中で、デニソワ人がどのように東アジアに広がったのか、そしてその起源がどこにあるのかという疑問がますます重要になっています。従来、デニソワ人とネアンデルタール人は43万年前に分岐した共通の祖先を持つと考えられていましたが、最近の研究では、デニソワ人とホモ・サピエンスが132万年前に分岐し、ネアンデルタール人はさらに古い時期に分かれた可能性があるという新たな見解が示されています。
東京大学の海部陽介教授は、「デニソワ人がどこから来たのか、そしてなぜ東アジアに広がったのかを解明することが、今後の研究の鍵になる」と述べており、デニソワ人の研究はますます重要なテーマとなっています。篠田謙一氏(国立科学博物館館長)は、デニソワ人がアフリカを起源に持つ古代人類が東アジアで進化を遂げた結果として広がった可能性が高いと指摘しています。
さらに、デニソワ人と現代人類との関係についても、興味深い発見があります。現代人にはネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子が一部引き継がれていることがわかっており、彼らと交雑していたことが明らかになっています。これにより、デニソワ人の遺伝子がどのように現代人に影響を与えているのかが、今後の研究によってさらに明らかになることが期待されます。
これらの発見は、デニソワ人が東アジアにおいてどのように広がり、どのような役割を果たしたのかを解き明かすための重要な手がかりとなります。今後の研究によって、デニソワ人の未解明の起源や進化の過程が明らかになり、私たちの人類史の理解が一層深まることでしょう。
日経新聞 2025年11月23日朝刊 サイエンス面 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG020PN0S5A101C2000000/
弊社がお手伝いしている研究領域:統合生物考古学班 https://i-bioarchaeology.org/

