水没する島国ツバルが示す、地球規模の適応策

2025年11月30日の日経新聞の朝刊サイエンス面に興味深い記事が掲載されていましたので紹介します。記事のタイトルは「温暖化による『水没』に直面する島国ツバルの挑戦 日本の適応戦略も転機」で、著者は久保田啓介編集委員です。

この記事は、気候変動による水没の危機に直面する太平洋の島国ツバルの現状を中心に、世界的な「適応策」の必要性と、日本を含む各国の取り組みを取り上げています。ツバルは、海面上昇の影響で国土の約9割が水没する恐れがあり、現在、オーストラリアへの集団移住が進んでいます。移住者は年間280人とされ、豪州との条約では、仮に国土が消失してもツバルを国家として認定することが盛り込まれています。さらに、メタバースに仮想国家を構築し、歴史や文化をデジタル空間に残す試みも始まっており、その独創性が注目されています。

気候変動対策として排出削減が不可欠である一方、排出削減だけでは限界があることも明らかです。現実には温室効果ガスの排出は増加が続いており、気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには2032年までに世界全体で排出ネットゼロが必要とされています。しかし、この目標達成は極めて厳しい状況にあります。日本エネルギー経済研究所の小山堅氏は、排出削減と並行して「適応策」への投資が圧倒的に不足している点を指摘し、両者のバランスを取ることが世界的な喫緊の課題であると述べています。

日本でも適応策は待ったなしの状況です。農業では気温上昇がコメや野菜、畜産に影響を与え、静岡県ではアボカドを特産品として育てる取り組みが始まっています。熱中症による死者は増加傾向にあり、都市のヒートアイランド対策や緑化など、根本的な対策がますます重要になっています。しかし、農林水産業や健康分野などでは対策の偏りが見られ、コメの品種転換が高齢化などの理由で進まないといった課題もあります。

茨城大学の三村信男教授は、適応策を実行に移すためには、関係者全員が気候変動を「自分ごと」として受け止め、多様な選択肢を活用する段階に入ったと指摘しています。こうした取り組みを後押しするため、適応策のデータベースが公開されるなど、知見を共有するための環境も整いつつあります。

この記事は、ツバルの事例を通じて、気候変動がもはや一国の問題ではなく、世界全体が向き合うべき課題であることを改めて示していました。適応策の強化と実行こそが、地球規模の未来を左右する鍵になりつつあります。

日経新聞 2025年11月30日朝刊サイエンス面                                              https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD19C5R0Z11C25A1000000/?fbclid=IwY2xjawOZ-9lleHRuA2FlbQIxMQBicmlkETFKTXc4Skc2UHJwRUFucGE4c3J0YwZhcHBfaWQQMjIyMDM5MTc4ODIwMDg5MgABHo-95gInhfnuPlfr97DrV2uiqgvRGH3e8mXmvQwErvyDBOzwwWIKMnu_r_R3_aem_vjJHDIVCsw302O9zBmpe5g

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