「最初の生命には『前』があった?」を巡る仮説

生命の起源に関する研究は、科学の大きな謎のひとつです。2024年12月8日付の日経新聞の記事では、地球上に最初に誕生した生命はRNAを基盤とするものだった、という従来の見解に一石を投じる仮説が紹介されています。その仮説は、「RNA生命の前に、RNAを持たない『似て非なる生命』が存在したのではないか」というものです。

生命の起源にまつわる挑戦

記事によれば、生命の起源を探る研究者たちは「生命とは何か」を定義する難しさに直面しています。生命の基本的な特徴としては、化学反応を通じて物質を作り出す代謝能力や、自己複製機能が挙げられます。しかし、それを実現する基盤として注目されるRNAは、自然環境での形成が非常に困難だとされています。

RNAは自己複製と触媒の両方を担える物質ですが、その構造の複雑さや不安定さが大きな課題です。RNAが生命の起源に直接関与したとする「RNAワールド仮説」は有力ではあるものの、RNAが自然に形成され維持された可能性は低いという指摘も多いです。

熱水噴出孔と干潟における仮説

生命の起源を探る研究の中で、深海の熱水噴出孔(チムニー)は重要な舞台として注目されています。海洋研究開発機構の高井研氏は、約40億年前の地球に存在した物質がチムニー内で化学反応を起こし、生命の素材が合成された可能性を指摘しています。この環境では液体二酸化炭素が水と混ざらないため、その境界面に物質が整然と並ぶという特性がRNA形成に役立つかもしれないというのです。

一方、東北大学の古川善博准教授は、陸地の干潟や温泉のような場所にも注目しています。これらの環境では、岩石に含まれるホウ酸が触媒となり、アミノ酸やRNAの構成要素が形成される可能性があるとのことです。干潟や温泉では、乾燥と湿潤が繰り返されることがRNAの形成を促進する要因となり得ます。

生命の「前」に何があったのか

記事では、「RNA生命の前に代謝だけで成り立つ生命のようなものが存在した可能性」が議論されています。横浜国立大学の小林憲正名誉教授や東京大学の市橋伯一教授は、この「似て非なる生命」がRNA生命の誕生に先行していた可能性を指摘します。たとえば、アミノ酸が連なったペプチドが自己複製に関与した可能性や、ランダムに形成された高分子が集まり化学反応を起こしたという仮説が挙げられています。

さらに、AI技術の進展がこうした研究に寄与する可能性も語られています。2024年のノーベル化学賞を受賞したデービッド・ベーカー氏のAIソフトウェアは、アミノ酸配列の複製能力を持つ分子の特定に役立つ可能性があると期待されています。

生命の起源を解き明かす意味

生命の起源をめぐる研究は、化学と生物学の交差点に位置する壮大なテーマです。その解明は、単に過去を知るためだけでなく、生命の本質や進化の可能性、さらには宇宙における生命探査にまで影響を及ぼすでしょう。

RNA生命の前にどのようなプロセスがあったのか。その答えが見つかる日はまだ遠いかもしれませんが、科学の挑戦が未来を切り開く手助けとなることを願いたいものです。

2024年12月8日 日経新聞 朝刊サイエンス面

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG11AFK0R11C24A1000000/

 

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