がんに抗う人体の不思議:細胞競合が防衛

日経新聞の朝刊サイエンス面(2024年9月14日)に掲載された記事をご紹介します。

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がんが日本人の主要な死因となる中、免疫や治療法に注目が集まっていますが、近年、私たちの体ががんに対して行う「細胞競合」という興味深い現象も明らかになってきました。

細胞競合は、異常な細胞と正常な細胞の間で起こる自然な競争です。この競争において、異常な細胞は通常、劣勢となり、最終的に死滅します。言い換えれば、私たちの体内では、がんの発生初期段階で、異常細胞が自然に排除される仕組みが働いているのです。この現象が観察されるのは、主にがんが本格的に発症する前の段階であり、細胞レベルでの初期防衛線として機能していると考えられています。

細胞競合は、1975年にスペインの研究者によって昆虫の細胞で最初に発見されました。そして、2009年には、京都大学の井垣達吏教授による研究で、がんの元となる異常な細胞の増殖が細胞競合によって抑制されていることが明らかになりました。この発見は、がんと細胞競合との関係を理解する上で大きな進展でした。

がんとの関連で注目される「細胞競合」の役割は、がんの早期発見や治療に新たな視点を提供しています。正常な細胞が異常細胞を排除する仕組みは、がんの進行を遅らせたり、阻止したりする可能性を秘めています。しかし、まだ多くの点が未解明です。例えば、細胞競合はすべてのがんに対して同様に機能するわけではなく、場合によっては正常細胞が異常細胞に負けてしまうことも報告されています。

さらに、細胞競合のメカニズムを活用して、がんの早期診断や予防に応用できる可能性が期待されていますが、現時点では具体的な応用例は限られています。藤田恭之教授は、細胞競合が人の細胞でどのように作用しているのか、今後の研究が必要だと述べています。

また、がんに対するもう一つの防衛メカニズムとして「骨膜反応」があります。東京大学の塚崎雅之准教授の研究によると、骨の外側にある骨膜が厚くなることで、がん細胞の侵入を防ぐ壁が形成されることがわかっています。この骨膜反応は、がんの侵入を遅らせ、骨周辺のがん転移を抑える可能性があるとして注目されています。

がんに抗う体内のメカニズムは、免疫だけに留まらず、細胞競合や骨膜反応など、多様な仕組みが複合的に働いています。これらの仕組みをより深く理解することで、将来的にはがん治療や予防の新たな手段が見つかるかもしれません。今後の研究により、細胞競合ががん治療にどのように貢献できるのかが明らかになることを期待しています。

 

日経新聞 2024年9月14日 朝刊サイエンス面

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG041LP0U4A900C2000000/

学術変革領域研究(A)「多細胞生命自律性」

https://www.multicellular-autonomy.lif.kyoto-u.ac.jp/

 

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