スーパーコンピューターの進化を阻む「発熱」と「電力」の壁
日経新聞の記事を紹介します。
スーパーコンピューター(スパコン)は、私たちの日常生活の裏側で大きな役割を果たしている存在です。最近の日経新聞の記事によると、スパコンは気象予測や災害対策、感染症対策など、さまざまな分野で貢献しています。たとえば、日本のスパコン「富岳」は台風の進路や南海トラフ地震の予測に活用されており、私たちの安全を支える「目に見えない守護者」とも言える存在です。
しかし、その進化がここにきて停滞の危機を迎えているというのです。その要因として挙げられているのが、「発熱」と「電力消費」の問題です。
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技術の進化が生むジレンマ
スパコンは、高度な計算処理を行うため、膨大な数の半導体を使用します。これまで「ムーアの法則」と呼ばれる法則に基づき、半導体の性能は着実に向上してきました。しかし、技術の進化が進むにつれ、半導体の微細化がもたらす課題が浮き彫りになりました。性能向上と引き換えに、消費電力や発熱量が飛躍的に増加してしまったのです。
たとえば、「富岳」は前世代のスパコン「京」と比較して、計算速度が40倍に向上しました。しかし、その一方で電力消費量は2倍以上、発熱量は1平方メートルあたりで5倍以上に達しています。これにより、冷却システムが不可欠となり、年間の電気代は数十億円に上るといいます。
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冷却の工夫と未来の構想
記事によれば、スパコンの冷却には主に「空冷方式」と「水冷方式」の2種類があり、後者の方が効率的であるため、近年では水冷方式が主流となっています。また、冷却効率を向上させるため、北極や南極のような寒冷地への移設も検討されています。アイスランドなどの地域は、再生可能エネルギーが豊富で、冷却に適した環境を提供してくれるという利点があります。
さらに、発熱問題への根本的な対策として、半導体の配線を金属から光に置き換える技術や、従来型スパコンを連携させる新しい設計思想も研究されています。また、量子コンピューターの実用化が進めば、現在のスパコンの代替手段となり得るとも言われています。
ただし、これらの取り組みが現実化するには時間がかかるのが現状です。その間にもスパコンの進化が停滞すれば、防災や医療などの分野に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
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社会に広がるスパコンの恩恵
スパコンの技術は、私たちの生活に直接的な恩恵をもたらしています。たとえば、医薬品や新素材の開発、自動運転技術の制御など、生活をより豊かにする技術の基盤となっています。また、こうした先端技術は、やがてスマートフォンやパソコンのような民生用製品に応用され、社会全体に広がっていきます。そのため、スパコンの進化が滞ることは、IT社会全体の停滞につながる可能性があるのです。
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「カッサンドラの予言」に耳を傾ける
記事の最後では、ギリシャ神話の「カッサンドラ」が引き合いに出されています。カッサンドラは未来を見通す力を持ちながらも、誰にも信じてもらえなかった予言者です。現代のスパコンの進化停滞も、同様に警鐘を鳴らすべき課題であるといえます。
私たちが享受する豊かさの背景には、こうした技術の恩恵があります。その持続可能性を考えることが、未来の安全と繁栄を支える第一歩ではないでしょうか。
2024年12月1日 日経新聞 朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO85158240Q4A131C2TYC000/
理化学研究所 富岳
https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku/
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