免疫と日本人特有の遺伝子:人類と病原体の終わらない競争

日経新聞の朝刊サイエンス面に掲載されたシリーズ「科学で迫る日本人:病との戦い」の最終回は免疫と遺伝子に関するものでした。ご紹介します。
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新型コロナウイルスの流行は、我々にとって免疫と遺伝子の役割を再考させる契機となりました。特に日本人における重症化リスクの低さの要因として、「ファクターX」という謎が注目されました。この謎を解き明かすため、国内の研究者たちが共同で取り組んできた研究が多くの示唆を与えています。
2022年に発表された研究では、免疫に関わる遺伝子「DOCK2」の変異が重症化リスクと関連していることが明らかになりました。この変異は日本人の約1~2割に見られ、65歳未満では重症化リスクが約2倍に増加するという結果が報告されました。興味深いことに、欧米人にはほとんど見られないこの変異が、日本人に特有の遺伝的要因として注目されました。しかし、新型コロナウイルスが次々と変異する中で、このDOCK2の影響は徐々に小さくなり、ウイルスの変異によって免疫の反応が変わるという「軍拡競争」が浮き彫りになりました。
こうした「免疫」と「日本人特有の遺伝子」の関係は、過去の歴史に遡ることができます。人類がネアンデルタール人と交雑し、その遺伝子を受け継いだことが、病原体に対する免疫力を強化したとされています。しかし、この遺伝的な強みも、必ずしも全ての人に恩恵をもたらすわけではありません。日本人に関して言えば、ネアンデルタール人から受け継いだ3番染色体の変異はほとんど持たず、欧米人と異なる免疫遺伝子が感染症への感受性に影響を与えていることが示唆されています。
日本人に特有の免疫反応を理解する鍵となるのが、「HLA」という遺伝子です。HLAは白血球の型を決定し、病原体に対する免疫応答を調整する重要な役割を果たします。日本人の約6割が持つ「HLA-A24」は、他の地域の人々にはほとんど見られない遺伝的特徴であり、感染症に対する感受性や免疫反応の違いを説明する手がかりになる可能性があります。
また、古代の日本人である縄文人のDNA解析からも興味深い事実が明らかになっています。縄文人に多く見られた「HLA-DRB1」の型は、結核に弱いという報告があります。稲作が日本列島に広がった弥生時代以降、結核が蔓延した背景には、この遺伝的特徴が影響していたのかもしれません。こうした過去の遺伝子が現代の日本人にも残り、病原体との戦いに影響を与えていることが示唆されています。
今日、人類は科学の力を駆使し、ワクチンや治療薬を開発し、免疫応答を高めることで病原体に対抗しています。遺伝的な強みや弱みがあるにせよ、現代の医療技術はその影響を最小限に抑えることに貢献しています。しかし、遺伝子の役割を無視することはできず、日本人特有の免疫と遺伝子の関係を解明することで、今後の感染症対策に一層の進展が期待されています。

日経新聞 2024年10月13日 朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO84086690S4A011C2TYC000/?fbclid=IwY2xjawF75hNleHRuA2FlbQIxMQABHXugOWbF41lrr-96sQ8-jZTtFM8jNLBpPQyAB07pIROrIwN90_4fgu5Efw_aem_gFDi5BRqiddyQu_wIeYBoQ

 

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