数値が示す希望、数値が隠すもの

2026年1月18日の日経新聞の朝刊サイエンス面に興味深い記事が掲載されていましたので紹介します。この記事は、日本経済新聞社が、受精卵のゲノム情報をもとに、生まれてくる子どもの特徴や病気のリスクを予測し、選別する検査サービスの現状と課題を伝えたものです。

記事によりますと、米国ではポリジェニックリスクスコア(PRS)と呼ばれる統計的手法を用い、病気のなりやすさや身長などの身体的特徴、さらには知的特性に関わる指標についても、生まれた後にどうなるかの「可能性」を数値として示すサービスが始まっているそうです。体外受精で得られた複数の胚を調べ、その中からより望ましい結果が期待されるものを選ぶ仕組みです。

遺伝子そのものを書き換える技術ではありませんが、「よりよい結果が見込まれる胚を選ぶ」という発想には、優生学的な思想に近づくのではないかという倫理的な懸念が伴います。記事は、その是非を一方的に断じるのではなく、まず科学的な前提条件に目を向けています。

東京大学の研究者らによる検証では、PRSは計算方法によって結果が大きく異なり、同じ胚が最も高く評価される確率は決して高くありませんでした。集団全体の傾向を捉えるには有効でも、個々の胚や個人を順位づけする用途には限界があるという指摘です。数値が示す結果は、あくまで統計的な「見込み」にすぎないことが、ここからも分かります。

一方で、PRSの医療分野での可能性にも触れられています。がんや心血管疾患などについて、高リスク群を見極め、検診や予防につなげる研究成果が報告されており、従来の方法では見逃されがちだった人を救える可能性も示されています。数値がもたらす「希望」の側面です。

ただし、どこからを高リスクと判断するのか、結果をどう伝え、どう支援につなげるのかといった課題は残ります。さらに、多くの病気は生活習慣や環境要因とも深く関わっており、遺伝情報だけで説明できるものではありません。

数値は判断を助けてくれますが、同時に見えにくくなるものもあります。期待と慎重さ、その両方を手放さずに技術と向き合う姿勢が、いま改めて求められているのだと感じさせる記事でした。

2026年1月18日 日経新聞朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO93827420X10C26A1TYC000/?fbclid=IwY2xjawPfoSVleHRuA2FlbQIxMQBzcnRjBmFwcF9pZBAyMjIwMzkxNzg4MjAwODkyAAEebfUYrhyMkkY6wnYGeXIzjJzdzfdRi4LxUZXAkzz76XlRHbLt6ukYw0sWypA_aem_mIxLNTq0ylULS5yXiEfEeg

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