ヒトの忘れ物:失われたDNA配列がヒトの進化を加速?

——————————-
今回は少し前の日経新聞のサイエンス面に掲載された記事を紹介します。ご所属、お肩書は掲載当時の情報です。
——————————-

人類の進化の謎に迫る一つの視点として、遺伝子の「脱字」が注目されています。先日発表された壮大な研究プロジェクト「ズーノミア」は、240種の哺乳類のゲノムを解読し、人類独自の進化の鍵となる発見をしました。この研究は、数百種の動物と人のゲノムを比較することで、人類だけに特異的に失われたDNA配列を1万カ所以上発見しました。この発見から、「人は失って得たもので進化した」という新しい仮説が浮かび上がっています。
人類の進化は、単なる遺伝子の変異だけでなく、特定のDNA配列を失うことによっても進んできた可能性があります。この「脱字」とも言える欠失は、他の動物には存在し、人類だけに欠けているもので、その多くが遺伝子の働きを調節する部分にありました。細胞実験で調べたところ、これらの欠失によって遺伝子の働きが変わり、特に脳や神経に関する遺伝子の活動が活発になることが確認されました。脱字によって遺伝子の「ブレーキ」が弱まったり、「アクセル」が強まったりすることで、遺伝子の働きが活発になることがあるのです。
この現象は、脳の発達に大きく寄与している可能性があります。研究に参加した米ジャクソン研究所の毛利亘輔研究員は、一つ一つの脱字による変化は小さいかもしれませんが、何百という蓄積が重要であると指摘しています。脳の発達と神経の進化に関与する遺伝子の働きが変わることで、人類の知能や行動の特異性が形成されたのかもしれません。
さらに、「ヒト加速領域(HAR)」と呼ばれる、特に人類で急速に変異が進んだDNA領域も注目されています。これらの領域は、他の動物では保守的に維持されているのに対し、人類では多くの変異が蓄積しています。特に、神経関連の遺伝子の調節に関与するHARが多く、これが脳の発達に重要な役割を果たしている可能性が高いのです。
京都大学の井上詞貴特定准教授も、HARが脳の発達などに関係している可能性があると述べています。これにより、例えばチンパンジーでは一つの遺伝子を調節していた配列が、人類では二つの遺伝子を調節するようになり、これが進化の急速な進展に寄与したと考えられます。
人類の進化の解明には、霊長類全体のゲノムの比較が不可欠です。北海道大学の早川卓志助教が参加した「霊長類ゲノムプロジェクト」では、新たに27種のサルのゲノムを詳細に解読し、人を含む計50種を比較分析しました。こうした比較により、人類とサルの進化の違いがより明確になります。早川助教は、行動や生態の野外調査だけではサルのことは分からないと述べ、ゲノム研究との融合が重要であると強調しています。
ヒトゲノムの解読から20年。解析費用の低下と技術の進歩により、今後も進化の謎に迫る発見が続くことでしょう。このような研究の進展は、人類がどのようにして今の姿に至ったのかを理解するための新たな視点を提供してくれます。科学の進歩とともに、我々の進化の物語はさらに深まっていくことでしょう。

日経新聞 2023年7月2日朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72412740R00C23A7TYC000/?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR3cRb1GfSonv1UwRsisVgySN9PXaoAoKfipnF7dmzuv7Ds3ISL759m2lYw_aem_AVUSU9anEoefaFYdYYBtyei4od4lRmr1c1un9kskwpopq7Lzkjb3uq3asqXDMgq1esWUXv9Iggnq8eUcvNjkG6-B

Facebookにも投稿しています

デザイン制作のことで、お困りではありませんか?

私たちはお客様のビジネスにおける課題解決に主眼を置くことで、さまざまなメディアに対応した企画、デザイン等、クリエイティブな視点で最良の一歩をご提案させていただく制作会社です。お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

ご相談はこちらから