最新DNA解析が紐解く稲作のルーツ

今朝の日経新聞にDNA解析で考古学がより発展してることを紹介する記事が掲載されていました。
弊社での昨年発足した「統合生物考古学」という学術変革領域研究班のWebサイト作成などをお手伝いしております。
https://i-bioarchaeology.org/
大変に興味深い記事でしたので、ご紹介いたします。

———————————————–
日本列島における稲作文明の伝来は、私たちの祖先の形成に深く関わっています。その経緯を追うことは、日本人のルーツを理解する上で欠かせません。しかし、近年の最新DNA解析によって、稲作文明の伝来だけでなく、縄文人や渡来人の遺伝的背景についても新たな知見が得られています。これにより、日本人の成り立ちがますます複雑で多様なものであることが明らかになってきました。
弥生時代の始まりは、九州北部で水田稲作が開始された約2800~2900年前に遡ります。当時の北東アジアからの渡来人が稲作技術を持ち込み、農耕社会を築いたとされています。従来の定説では、渡来人は現代の韓国人や中国人に近い遺伝的特徴を持つとされてきましたが、近年の最新DNA解析はこの見解に修正を迫っています。
福岡県の安徳台遺跡から出土した弥生時代中期の女性人骨の核DNA解析結果は、これまでの考えを覆すものでした。この女性は典型的な渡来系弥生人と見られていましたが、実際には縄文人のDNAを現代日本人と同程度に持っていました。これにより、渡来人が必ずしも縄文人とは遺伝的に完全に異なる存在ではなかったことが示されました。
また、韓国南部の釜山郊外から出土した約6000年前の古人骨DNAも重要な発見をもたらしました。このDNAは現代日本人と同程度に縄文人の要素を含んでおり、現代の韓国人よりも日本人に近いものでした。これにより、朝鮮半島には多様な遺伝的背景を持つ人々が住んでいたことが分かります。
さらに、日本列島で暮らしていた縄文人自体も一様ではなく、地域差があったことが明らかになりました。2018~2023年に実施された国の大型研究プロジェクト「ヤポネシアゲノム」によると、縄文人のミトコンドリアDNAには西日本から琉球列島に多いタイプと北海道から東日本に多いタイプがあることが判明しました。これにより、縄文人は均一な集団ではなく、複数のルートを通じて日本列島に到達し、地域ごとに異なる特徴を持っていたことが示されています。
東アジア全体の広範な移動と混交も、稲作文明の伝来と密接に関連しています。中国北東部の西遼河流域の古人骨DNAには、朝鮮半島の古代人や渡来系弥生人との共通性が見られます。また、稲作の起源は中国南部の長江流域にあり、ここから北上した稲作農耕民が朝鮮半島に入り、さらに日本列島に達したと考えられます。これらの人々は雑穀農耕民や半島の縄文系の人々と混ざり合い、渡来人として日本に到達した可能性があります。
特に興味深いのは、長江文明が約4200年前に突然滅亡したという事実です。同時期にエジプト、インダス、メソポタミアなどの文明も衰退しており、北半球全体の気候変動がその一因とされています。弘前大学の研究によると、長江河口近くの海底堆積物を分析した結果、約4400~3800年前に複数回の水温低下があったことが分かっています。これが長江文明の水稲栽培に致命的な影響を与え、移住を促した可能性があります。
現代日本人のDNA解析も、この複雑な歴史を裏付けています。理化学研究所の研究チームは、3000人以上の日本人のゲノムデータを解析し、日本人の集団が3つの遺伝的要素が混ざって成り立っていることを示しました。これらの要素はそれぞれ現代の沖縄、東北、関西の人々に比較的多く受け継がれています。しかし、これが具体的に縄文人や弥生時代の渡来人と一致するわけではなく、さらに多くの遺伝的要素が関与している可能性もあります。
これらの研究は、私たちがどのようにして今の日本人としてのアイデンティティを築き上げてきたのかを理解するための貴重な手がかりです。科学技術の進歩により、今後さらに詳細な解析が進むことで、私たちの祖先の姿がより明確に浮かび上がってくることでしょう。
———————————————–

2024年7月14日 朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG25C1G0V20C24A6000000/
ヤポネシアゲノム
http://www.yaponesian.jp/

 

Facebookにも投稿しています

デザイン制作のことで、お困りではありませんか?

私たちはお客様のビジネスにおける課題解決に主眼を置くことで、さまざまなメディアに対応した企画、デザイン等、クリエイティブな視点で最良の一歩をご提案させていただく制作会社です。お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

ご相談はこちらから