期待の抗老化製品:勘違い?、未必の故意?

2025年5月18日付の日経新聞・朝刊サイエンス面に、抗老化に関する興味深い記事が掲載されていましたので、ご紹介いたします。

近年、老化細胞をターゲットにした抗老化製品が注目を集めています。老化細胞が体内に蓄積され、健康に悪影響を与えることが分かってきた中で、これらを除去することが健康寿命の延伸につながるという研究成果が報告されています。特に注目されているのは、老化細胞を除去する「セノリシス」と呼ばれる治療法で、抗がん剤のダサチニブや、ポリフェノールの一種などがマウス実験で効果を示しています。しかし、人間における応用については、副作用の問題や十分な効果の証明がなされていないのが現実です。

こうした研究が進む中で、国内企業が「老化細胞を体内で見分ける手法を開発した」「それを除去する成分の特許を取得した」といった内容を発表していますが、専門家の間ではこれに対して慎重な意見も多く寄せられています。大阪大学の原英二教授は、「老化細胞を体内で見分ける方法はまだ確立されていない」と指摘し、企業が主張する技術についても「老化細胞以外の細胞も誤って検出してしまう」と強調しています。これが意味するのは、企業が発表する成果が科学的に信頼できるかどうかについては、今のところ疑問が残るということです。

ここで重要なのは、これらの取り組みが主に製薬会社ではなく食品メーカーによって行われている点です。製薬会社は、薬の効果や安全性に関して厳格な科学的証拠が必要であることを十分に理解しているため、抗老化製品の商業化に慎重です。しかし、食品業界では「機能性表示食品」など、科学的な証拠が完全に整っていなくても、ある程度のエビデンスで製品を販売することが可能です。少子高齢化が進む日本では、抗老化をテーマにした商品が消費者の関心を引き、企業にとっては魅力的なマーケットであることは確かです。しかし、その裏にある科学的な不確実性を無視して、製品が消費者に売られていることに対する懸念は拭いきれません。

企業が提供する「特許取得」などの情報も注意が必要です。特許は、新規性や産業上の応用可能性が認められることを示すものであり、科学的な正しさを保証するものではありません。この点について誤解が生じると、消費者はあたかもその技術が確立されたものだと勘違いしてしまう可能性があります。企業が意図的にこの誤解を助長しているのか、それとも単なる勘違いに過ぎないのか、判断は難しいところです。

また、血液検査によって「老化時計」を測定し、年齢に基づいた生活改善提案や食品の摂取をすすめるサービスも増えてきています。この検査は、DNAのメチル化状態と年齢との相関関係を利用していますが、杉本昌隆理事長(日本基礎老化学会)は、「あくまで相関関係であり、因果関係はまだ解明されていない」と強調しています。現時点では、これを基に若返りを実現できるかどうかは不確かです。

企業が積極的に宣伝している抗老化製品が本当に科学的な根拠に基づいているのか、それとも消費者の誤解を意図的に誘っているのか。その違いを見極めることが、今後ますます重要になっていくでしょう。少なくとも、現段階では科学的証拠がまだ十分に整っていないことを消費者に理解させることが、企業の責任ではないでしょうか。

私たち消費者もまた、企業が提供する製品の裏にある科学的根拠をきちんと確認し、誤解を招くような商業的手法に惑わされないようにすることが求められます。企業の行動が勘違いに過ぎないのか、それとも消費者を意図的に誤導するための「未必の故意」なのか。その線引きが、今後ますます問題になるでしょう。

2025518日 日経新聞朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO88744990X10C25A5TYC000/?fbclid=IwY2xjawKaDBtleHRuA2FlbQIxMQBicmlkETFYb2cwQ2hseTBQRUZERVl2AR6Zud_9JiNSsA0WjPuoiwU46kOmL40npPGXH0sm4eItYQeK8vYW3lho2eDolQ_aem_19F3AMUYipRnIiSIxH18kg

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