0.1%の違いが創る私たちの姿形

「科学で迫る日本人:祖先どこから」という連載の最終回が掲載されました。

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私たち人間の外見には、地域ごとに独特の特徴が見られます。日本を含む東アジアの人々に共通する太い髪の毛、濃い眉毛、二重まぶたなどは、その一例です。これらの特徴は、実は遺伝子のわずかな違いから生じています。人類のゲノム(全遺伝情報)のうち、違いはわずか0.1%しかありません。この0.1%の違いが、私たちの姿形を決定しているのです。
最近、鳥取市の青谷上寺地遺跡で出土した人骨をもとに復元された「青谷弥生人」の姿が発表されました。この復元作業は、単なる想像ではなく、遺伝子情報に基づいて行われました。国立科学博物館の神澤秀明研究主幹によると、骨から核ゲノムの情報を取得し、外見に関わる遺伝子多型を確認することで、その表現型を判定したそうです。遺伝子多型とは、遺伝子の配列が変異したもので、この変異が私たちの外見に大きな影響を与えます。
例えば、日本を含む東アジアの人々に多く見られる遺伝子「EDAR」の多型は、太い髪の毛や特有の前歯形状、小さな耳たぶ、薄いひげなどの特徴に関連しています。このEDARの多型は、東アジアの大陸で生まれ、弥生時代に渡来人を介して日本列島に広がったと考えられています。
遺伝子の変異が子孫に広がる現象は非常に稀です。多くの変異は世代を重ねるうちに消えてしまいますが、生存に有利な変異は「自然選択」によって集団内に広がることがあります。例えば、皮膚の色に関わる遺伝子多型がその一例です。低緯度地域では、紫外線から皮膚を守るために暗い色の皮膚が有利とされ、一方、高緯度地域では、ビタミンDの合成に関わるために明るい色の皮膚が有利とされています。
人類には約2万個の遺伝子があり、そのうちの99.9%は共通しています。ホモ・サピエンスが約20万~30万年前に出現したため、遺伝的な多様性は比較的少ないのです。私たちは外見の違いに注目しがちですが、それ以外の部分はほとんど変わりません。琉球大学の木村亮介教授も「私たちは外見にとらわれがちですが、それ以外の部分はほとんど変わらない」と指摘しています。
ゲノム解析の進展により、「人種」という古い分類の概念が科学的に否定されています。人類学者の共通認識として、生物学的に人を分けることはできず、人種は恣意的なものでしかないとされています。かつて学校で教えられた「モンゴロイド」などの言葉も、今では消えた仮説に過ぎません。
現代人と古代人の間には、多くの共通点があります。旧石器時代の遺跡からは、世界最古の釣り針やアクセサリーが見つかっています。石器に適した黒曜石を採取し、海上輸送を行っていた証拠もあります。旧石器時代の人々が船を作り、日本列島に渡ったことが再現実験によって明らかになっています。東京大学の海部陽介教授は「旧石器時代の人たちの知性が現代人より劣るとは思えない」と述べています。私たちも同じ環境にいたら同じような創意工夫をするでしょう。
今後も人類の移動は続き、ゲノムの混合も進むでしょう。日本の人々と他の地域の人々との違いに注目する前に、共通性を忘れずにいたいものです。人類の遺伝的な共通性と多様性を理解することで、私たちの未来に対する新たな視点が得られるでしょう。

 

2024年7月28日 朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO82378030X20C24A7TYC000/?fbclid=IwY2xjawEdN3pleHRuA2FlbQIxMQABHYvmdBCCOQ791d7FB3FxAPKvzHxAXvF5DUOEOhk57MHHJe9ZsZFHT4LugQ_aem_5QnXW0TB4-eiWwjzelP1lg

 

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