ウイルスが関わる可能性 ― 心の不調に新たな視点
2025年6月15日の日経新聞の朝刊サイエンス面に興味深い記事が掲載されていましたので紹介します。
現代社会では、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった心の病に悩む人が増えているようです。これらの病は、けがや感染症のように明確な身体的原因が特定しにくく、治療が困難なことも少なくないとされています。そうした中で、体内に潜伏するウイルスや遺伝子が、これらの疾患の発症に関与している可能性が指摘され始めています。
東京慈恵会医科大学の近藤一博特任教授らの研究によれば、「ヒトヘルペスウイルス-6(HHV-6)」が、うつ病の発症と関連している可能性があるといいます。HHV-6は、生後1歳半までにほとんどの人が感染し、その後は脳などに潜伏する性質を持つとされています。近藤教授らは、マウスを用いた実験で、HHV-6が産生するタンパク質「SITH-1(シス1)」が特定の脳細胞に作用し、うつ病様の状態を引き起こすことを確認したと報告しています。実験では、マウスに遺伝子を導入してシス1を過剰に産生させた結果、しっぽをつかんで持ち上げた際の抵抗時間が短くなるなど、うつ病に類似した行動変化が観察されたとされています。
さらに、うつ病患者の血液を分析したところ、SITH-1に結合する抗体の増加が確認されたとのことです。これにより、患者の体内ではSITH-1の量が増えている可能性があると考えられているようです。加えて、2024年には、HHV-6の遺伝情報の一部が変異すると、うつ病の発症リスクが約5倍に高まるとの研究結果も報告されています。この研究では、70人以上のうつ病患者および健常者の唾液中に含まれるHHV-6を解析したとされていますが、対象人数が限定的であるため、今後はより大規模で多様な集団を対象に検証を進める必要があるとされています。
うつ病の発症には、精神的ストレスや神経伝達物質の異常など複数の要因が関与していると考えられており、HHV-6の影響がどの程度かについては、引き続き慎重な検証が求められています。
一方、PTSDに関しても、体内要因に着目した研究が進められているようです。東京大学や国立精神・神経医療研究センターの研究チームは、PTSDの発症に関わる可能性のある遺伝子機能の低下を確認したと報告しています。およそ50人のPTSD患者および健常者の血液、さらに病態を再現したマウスの脳を調べたところ、記憶に関わる脳の仕組みに変化が生じ、恐怖記憶が呼び起こされやすくなる様子が確認されたとしています。
もちろん、特定のウイルスや遺伝子の作用だけで、うつ病やPTSDのすべてを説明できるわけではなく、病態の全容はいまだ明らかではないとされています。今後も、患者の脳や体内で生じる多様な変化について、さらに詳細な研究が必要とされているようです。
記事では、こうした「身体が心に影響を及ぼす」という考え方は古くから存在していたが、近代医学の発展とともに心身を分けて捉える傾向が強まったと紹介されています。最近の分子レベルの研究が、改めて心と身体の結びつきを浮き彫りにしつつあるとしています。
多忙な現代社会では、知らず知らずのうちに心身の負担が蓄積しがちですが、こうした研究成果に触れることで、自分自身や周囲の変化に気づき、思いやる契機となるのではないか――記事はこのように結んでいます。
2025年6月15日 日経新聞 朝刊サイエンス面
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO89370330U5A610C2TYC000/?fbclid=IwY2xjawK8iv5leHRuA2FlbQIxMQBicmlkETFYb2cwQ2hseTBQRUZERVl2AR6wyfrpAfhNr4IT2mZEtYex6qUOP9dJb5Ivf6TCnDEEXNc36_dvrx5NsQFCBA_aem_np5FFJICemqhjiVhNiENIQ
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